Tom Takahashiのブログ〜All about my interests

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AIは運動方程式を発見できるか?

 最近、話題の高まりもあってこのテーマについて考えてしまう。初めのうちは、こんな問いはナンセンス極まりない、なんていう風に思っていた。でもやはり、自分はまだ若く(来月で24歳)、汎用AIが産業界・学術界に現在に状況よりも増して浸透していくであろう未来を生きるわけである。また、AIの研究は最早、魔術化しすぎていて科学というものの範疇になく、真剣にその振る舞いについて考えるべきなのではとも思う。このような理由から題名にあるようなことを考えてみた。
 
 僕の自説の結論は、「AIは少なくとも、(現段階では)問題発見能力までは持てない」である。自説というよりは、数冊の本と、主に落合陽一の意見、そして自らの経験を踏まえた上での妄想と言ったほうがいいかもしれない。
  
 大量のデータをAIに入力すれば、いとも簡単に運動方程式を書き下すだろう。と考えるのは少し短絡的すぎるのではないか。ケプラーは確かに、ティコ・ブラーエが残した膨大な量の天体運動に関する観測データから有名な3法則を見出した。

ニュートンも、特に第3法則(惑星の公転周期の2乗が楕円軌道の長半径の3乗に比例)を使って、遠心力のアイディアから、「重力」というものを考えついた(らしい。詳しいことはよく知らない。ただニュートンケプラーの第3法則から遠心力みたいなものを確かに導いている。詳しくはスティーブン・ワインバーグ『科学の発見』を読んでください。これは個人的にはサピエンス全史に並ぶ傑作だと思う)。

 とにかく、その時代にもしAIが存在していたら、ケプラーより早く同じ結論に達していた可能性が極めて高い。
 がしかし、である。ケプラーの法則は、いわゆる「運動学」にすぎない。この「運動学」とニュートンによる「力学」は、学部の同じ講義の時間で学ぶかもしれないが、根本の部分で異質なものだ。「運動学」は、なぜその運動が生じるか、という理由に踏み込んではいない。ただ単に、運動の様子を数学的に記述するだけである。そういう意味で、まだ古代ギリシャ時代、アカデメイアで賢人たちが作ろうとしていたものの延長なのである。しかしニュートンによる「力学」は、”なぜ” 惑星は恒星の周りを楕円軌道を描いて回るのか、あるいは”なぜ”りんごは木から落ちるのかという「理由」を「説明」している。ここで注意すべきは、「記述」と「説明」の違いである。
 話を元に戻すが、とにかくここで言いたいことは、AIはデータから現象を「記述」することにおいては人間をはるかに凌駕するだろうが、「説明」することにおいてはどうだろうか。ということである。ケプラーの3法則を瞬時に見出したところで、その惑星の周回運動と、りんごが落ちるという運動が、同じ「運動方程式」というもので、統一的に「説明」できるということに気付けるだろうか?

 ニュートンは、人類始まって以来の、革命的科学者である。アインシュタインでさえ、そこのレベルに肩を並べられていないかもしれない。
 ニュートンのすごいところは何より、”気づけた”というところなんだと思う。地球上のものの落下と、惑星が恒星の周りをぐるぐる回るという現象が、同じ理由で説明できるのではないか、という風に。このように、”気づく”ということはAIにできるのだろうか。すなわち研究における問題発見能力は持てるのだろうか。それはいつか汎用AIが出現し、感情のようなものが芽生えたAIロボットが夜空を見上げるようになったら、きっとわかることなんだろう。

 ここからなんとなくわかることは、知的好奇心とか、何かを不思議に思えることなんかは、これからの人間にとって、難しい計算問題を素早く解けることなんかよりずっと重要だろう、ということかな。なんだか、自明な答えが出てきてしまった。